タキシード・ジャンクション(その3)…原曲とカバーアレンジ
(その1・その2に引き続き、もうちょっとタキシード・ジャンクションの話を…)
私がある曲をアレンジする場合、原曲と有名なカバーアレンジは内容を確認するようにしています。
具体的にはWikipediaの曲の情報を参考に、
原曲と有名なカバーアレンジの音資料をYouTubeで探し、
他にも参考になりそうな(もしくは自分の好みに合いそうな)アレンジも併せて探します。
(「世間で一般的とされているアレンジがどういうものかを把握するため」です。
特に依頼を受けてアレンジをしている場合には、重要になります。)
タキシード・ジャンクションのWikipediaの情報によると、
Erskine Hawkins, Bill Johnson, Julian Dashが作曲し、Erskine Hawkins & His Orchestraが録音したものが原曲のようです。(私、不勉強なもので、割と最近までグレンミラー楽団の演奏がオリジナルだと思っていました。)
原曲はこちら。
グレンミラー楽団の演奏はこちら。
この2つを比べると、
(1) グレンミラーのアレンジでは特徴的なTrbのプランジャーのフレーズが原曲にはない。
(2) グレンミラーのアレンジではテーマの対旋律として出てくるTrpのフレーズが、原曲ではイントロで使われている。
(3) 原曲のテーマとソロの最初16小節のバックグラウンドのアレンジをほぼ流用。
(4) 原曲は、曲のフォーム(AABAの32小節)を基本的に保ったままだが、グレンミラーのアレンジでは変則的なフォーム・構成になる。
ということが分かります。
(4)を詳しく見ていきます。
原曲の構成は、
イントロ(8小節。テーマの最初と同じコード進行。)
→ テーマ(AABAの32小節)
→ Trpソロ(AABAの32小節)
→ Claソロ(AABAの32小節)
→ テーマ(AAのみの16小節。前半はTrpアドリブが、後半はイントロと同じフレーズが加わる。)
となっています。
1コーラス32小節の曲のフォームを忠実に守る構成で分かりやすいですが、
反面、聴いていて単調な感じもします。
一方、グレン・ミラー楽団のアレンジの構成は、
イントロ(8小節。テーマの最初と同じコード進行。特徴的なTrbのプランジャーのフレーズ。)
→ テーマ(ABの16小節。Aの部分はTrbのフレーズが継続し、原曲のイントロのフレーズも加わる。Bは原曲とほぼ同じ。)
→ Trpソロ1(Aの8小節。原曲のTrpソロのバックグラウンドを流用。)
→ Trpソロ2(Aの8小節。テーマのメロディとTrbのプランジャーのフレーズがバックグラウンド。)
→ バンプ(音量はp。Aのコード進行で8小節。Trbのプランジャーのフレーズ。)
→ テーマ(音量はmf。Aのコード進行の最初2小節×3=6小節。Trbのフレーズは継続。Trpの2小節フレーズ×3が加わる。テーマのメロディーは3小節目からAの前半4小節のみ。)
→ 例のTrpのフレーズ(音量はf。2小節)+ドラム(もしくはピアノ)ソロ(2小節)
→ バンプ(音量はp。Aのコード進行で8小節。Trbのプランジャーのフレーズ。)
→ テーマ(音量はp。Aのコード進行の最初2小節×3=6小節。Trbのフレーズは継続。Trpの2小節フレーズ×3が加わる。テーマのメロディーは3小節目からAの前半4小節のみ。)
→ 例のTrpのフレーズ(音量はp。2小節。)+ドラム(もしくはピアノ)ソロ(2小節)
→ バンプ(音量はp。Aのコード進行で8小節。Trbのプランジャーのフレーズ。)
→ テーマ(音量はf。Aのコード進行の最初2小節×3=6小節。Trbのフレーズは継続。Trpの2小節フレーズ×3が加わる。テーマのメロディーは3小節目からAの前半4小節のみ。)
→ 例のTrpのフレーズ(音量はf。2小節。)+最後のBrassの2つの和音とSaxのユニゾン。
となっていて、1コーラス32小節の曲のフォームから離れて、かなり変則的な構成になっています。
テーマのバックグラウンドに原曲のイントロのフレーズを持ってきたり、
ソロのバックグラウンドにテーマを持ってきたり、
音量を変えて「バンプ→テーマ→例のTrpのフレーズ」を3回繰り返したり、
(このアイディアは「In The Mood」でも見られますね。)
聴いていて単調にならないようにする工夫が施されているように感じます。
一方、テーマのBの部分は曲中に1回しか出てこないため、AABAのフォームはハッキリと感じ取れません。
変則的な小節数で出来ている構成は、曲の分かりにくさにも繋がります。
では、なぜこの分かりにくさを持つアレンジに行き着いたのか?
以下、私の推測ですが、
当時はLPレコードがまだなかったので、キャッチーな展開をSPレコードの片面に収録できる長さに納めるため、各要素を極力短くした結果、構成が変則的になった。
ということのような気がします。
(この制限がなかったら、また違うアレンジになったような気がします。)
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